Sabine Devieilhe & Mathieu Pordoy | 2023年6月16日 | ウィーン楽友協会

16. Juni 2023
Wiener Musikverein
楽友協会
Brahms-Saal
ブラームスホール

Sopran Sabine Devieilhe
Klavier Mathieu Pordoy

Alban Berg
aus: Jugendlieder Bd. 1
Schliesse mir die Augen beide (1907)
Spielleute
Vielgeliebte schöne Frau
Sehnsucht II

Menuett F-Dur für Klavier solo

Schliesse mir die Augen beide (1975), aus: Ferne Lieder
Die Nachtigall, aus: Sieben Frühe Lieder

Wolfgang Amadeus Mozart
Komm liebe Zither, KV 351
Das Veilchen, KV 479

Hugo Wolf
Albumblatt für Klavier solo

Wie glänzt der helle Mond, aus: Sechs Gedichte von Keller, Alte Weisen

aus: Italienisches Liederbuch
Auch kleine Dinge können uns entzücken
Mir ward gesagt du reisest in die Ferne
Mein Liebster ist so klein
Wenn du mein Liebster steigst zum Himmel

Pause

Wolfgang Amadeus Mozart
Menuett KV 1d für Klavier solo

Abendempfindung an Laura, KV 523
Solfeggio, KV 393

Richard Strauss
Meinem Kinde, op. 37/3
Waldseligkeit, op. 49/1
Winterweihe, op. 48/4

Träumerei für Klavier solo

Ihre Augen, op. 77/1
Amor, op. 68/5

まるでリアルなフランス人形だった!

片方の肩を出したピンクのロングドレス姿で登場。緩くまとめたブロンドの毛先が剥き出しの肩に軽く触れる。それに、なんという優雅なお辞儀だ。上品で洗練された動きに見惚れる。

こんなに完璧な人間はズルイと思ってしまいたくなるのだが、サビーヌ・ドゥヴィエルからは、まったく嫌な感じを受けない。これだけ華やかなのに、一方で落ち着いた大人でもあり、余裕がある。

チャーミングな人物や抜群の歌唱力だけではなく、私は今回のプログラムにも惚れた。とりわけ、予習時から夢中になったのはアルバン・ベルクの歌曲。特にSpielleute、Vielgeliebte schöne Frau、Sehnsucht IIの3曲、さらに言えば、特に特にSpielleute。予習時は男声歌手の音源で予習したので、初めて女声、しかもソプラノで聴いた。ずいぶん高い音域で歌うんだなと思った。

歌曲を歌う歌手の重要な能力の一つは、無数に存在する歌曲の中からどの作品を選んで歌うかという能力。フランス出身の歌手でありながら、あらゆるオペラに加えて、フランス歌曲だけでなく、ドイツ歌曲にも取り組み、独自のレパートリーを持っている。そして、こうして堂々とドイツ語圏でドイツ歌曲のリサイタルを行う。サビーヌ・ドゥヴィエルが注目に値するソプラノ歌手であることは、もう間違いない!

せっかくなので、入手したプログラムの解説やインターネット上の情報を参考に、アルバン・ベルクの歌曲についてさらに深追いしてみよう。プログラムは全編ドイツ語だが、勉強も兼ねてテキストを自分で手打ちしてGoogle翻訳で英語に変換してみた。

アルバン・ベルクの歌曲

驚愕の事実が目に付いた。私が特に気に入った3曲は、アルバン・ベルクが正式な音楽教育を受ける前に独学で作曲した歌曲約30曲のうちの3曲だった。作曲家の死後から何十年も経て、1985年に “Jugentlieder I” として出版されている。(プログラム解説では、この時期の歌曲作品は約30曲となっているが、WikipedhiaにはJugentlider I とII で、それぞれ23曲ずつ、計46曲が収められていると書かれている。)出版から40年近く経つが、それでも比較的「最近」出版されたクラシック音楽歌曲であると言えるのではないだろうか。まだ、それほど知られていないように思うし、歌手たちによる録音も少ないように感じる。

十代のアルバン・ベルク!

背筋が凍るような類稀な才能ではないか!

曲としての完成度が高い。不気味な暗さ、絶望、憧れが渦巻く音楽。何曲も歌曲を聴いてきた私が直感的に惹かれる曲。ベルクは当時16歳〜17歳。ちなみに、ベルク家の使用人との間に娘が誕生した頃だ。

プログラムの解説は音の分析に偏っている。私自身が楽典の知識が乏しいので、書いてあることをよく理解できないのだが、それだけ分析したくなるような音を、十代のベルクは選んでいたのだろう。

予習編でも取り上げたが、”Spielleute” (吟遊詩人)はノルウェーの文豪イプセンの詩をベースにしたLudwig Passargeによるドイツ語の詩。イプセン版の原詩と比べてみたが、だいぶ異なるので、詩の翻訳というわけではないのだろう。詩をベースにした、新たな創作という理解で良さそうだ。ただし、別の作曲家もこのLudwig Passargeのドイツ語版で歌曲を作曲しているが、ベルク版より詩が長い。ベルクは、このドイツ語版を一部削ぎ落としたのだろうか?ベルク版の “Spielleute” の詩は、ネット上ではうまく探せなかった。長いバージョンまたは、一部足りないバージョンはあったのだが。プログラムより、ベルク版の “Spielleute” の詩を掲載する。

Spielleute

Zu ihr stand all’ mein Sehnen
In der lichten Sommernacht.
Doch der Weg ging vorüber am Fluss,
Wo heimlich der Wassermann lacht.

Ja, verstehst du mit Grau’n und Singen
Zu umgaukeln der Schönen Sinn,
So lockst du zu großen Kirchen
Und prächtigen Säulen sie hin.

Ich rief ihn heraus aus der Tiefe,
Er spielt’ und mir heute noch graut.
Da ich sein Meister geworden,
ward sie meines Bruders Braut.

ベルクによる当歌曲は1902年(17歳)に作曲されたようだ。Spielleute 吟遊詩人というだけで、十分ミステリアス。人々を楽しませる歌を歌いながら心で泣いている人という印象なので、私の中では道化に近いイメージ。ちなみにドイツ語をよくご存知でない人のための補足だが、Spiel (play)と Leute (people) を組み合わせた言葉である。主人公である吟遊詩人に加えて、ドイツ語版では、Wassermannも登場する。水の精なのだが、”mann” というから男だ。個人的にはドヴォルザーク作曲オペラ「ルサルカ」のヴァッサーマン Vodnik を思い浮かべる。スラヴ神話の生き物なのだが、ゲルマン神話でも同じようなキャラがいるのだろう。日本で言うとカッパかもしれない。しかし、「ルサルカ」のVodnikは人魚ルサルカを心配するお父さん的な存在だったが、SpielleuteのWassermannは邪悪なケモノという設定のようだ。プログラムでも des bösen „Wassermanns“ と書かれているので悪いヤツである。(わざわざここでプログラムのドイツ語を持ってこなくても、実際にベルク作曲の歌でも、この部分は暗く表現されているので、Wassermannが悪い者であることは十分わかる。)

私は詩を正確には理解できていない。英語に変換してみても、複数の意味を持つ単語が多いので、いまいち筋を掴めない。ネット上で見つけた和訳も、少し違うのではと思う。Wassermannは密かに笑いながら吟遊詩人に対して何か忠告しているようだ。恋が成就する魔法を教えてやるなどと言っているのか?それで、吟遊詩人は思い切って恐ろしいWassermannを水の底から呼び出しみた。魔術かを学んでいる間に、好きな女の子は吟遊詩人の兄(または弟)と結婚してしまったようだ。というのが私の解釈である。こうして文字だけで読むと、なんだか間抜けな吟遊詩人の失敗談で、苦笑しながら面白く読めそう&歌えそうなのだが、ベルクが作曲した歌曲はそうではない。この後、おぞましい事件が起きそうな予感を帯びたまま曲は終わる。プログラム解説では、最後の「彼女は僕の兄(弟)と結婚してしまった」という部分をハ短調で暗く歌っているのに、伴奏の最後の和音が長調で終わっていることを取り上げ、彼女を想う愛しい気持ちが急に再燃したと説明している。

3曲のうちの残りの2曲はハインリッヒ・ハイネによる詩。”Vielbeliebte Schöne Fran” は、”Spielleute” 同様、あるいはそれ以上に、終わり方が印象的。冒頭からピアノのベースに乗って、メランコリーに暗く歌うが、最後の「美しい女性」と叫ぶところは極めて神々しい。「長音かつ、この曲の中で最も高い音」であると、プログラムでも指摘されている。”Sehnsucht II” は、自動英訳したプログラムに何度も「青白い」(pale)という単語が出てくる。著者によると、この詩で描かれている、主人公の憧れの女は、すでに死んでいるのだろうということ。そう言われて改めて詩を読むと、確かにその解釈がしっくりくる。

アルバン・ベルクがシェーンベルクの元で学ぶ前に作曲した歌曲がすべてハイレベルなのか、それともこの3曲が特別にすごいのか。それは、各曲を調べてみないと分からない。ベルクの初期作品を知るきっかけを与えてくれた、今日のリサイタルの選曲に感謝したい。

ピアノ

このリーダーアーベント (Liederabend – 夕方に演奏される歌曲リサイタルを、ドイツ語圏ではこう呼ぶ)では、歌曲で取り上げられた4人の作曲家(アルバン・ベルク、モーツァルト、フーゴ・ヴォルフ、リヒャルト・シュトラウス)による短いピアノ独奏曲も組み込んでいる。素朴で短い素敵な曲ばかり。リヒャルト・シュトラウスの初期のピアノ曲については、フランク・ブラレイのCDで以前から知っていた。他の曲は今回初めて知る曲。ベルク、ヴォルフの曲は自分でもいずれ弾いてみたい。モーツァルトのピアノ曲は彼が5歳の時の作品だそうだ。桁違いの天才だ!

本公演でピアノを担当したMathieu Pordoyは、オペラ等のために歌手たちを指導するいわゆるコレペティトゥーア(レペティトゥーア)のピアニストである。公演で演奏することはあまりないと思われるが、素晴らしいピアニストだった。(ピアニストに対する評価が厳しいワタシが最高の評価を与えているのだ!) 曲を知的に正確に解釈し、適切に表現する。余計な大袈裟な表現はしないが、その範囲内で曲の魅力を引き出す。歌曲ピアニストはそうでなければ!ある意味、私はいつも歌曲ピアニストをソリストピアニストより尊敬してしまうのだが、Mathieu Pordoyの演奏を聴いて、その想いがますます確かなものとなった。

モーツァルト、他

アルバン・ベルクが終わったところで、サビーヌさん、聴衆に向かって一言ご挨拶。

ドイツ語だった。当然かもしれないが、やはりドイツ語ぐらい当たり前に喋れるのだな。「ウィーンと結びつけるのに最適な作曲家といえば、やっぱりモーツァルトでしょう!」みたいな感じ(あまり聴き取れなかったので、想像だが・・・)で、モーツァルトの曲につなげた。ウィーン以外の各都市でもこのプログラムで公演を開催しているようなので、ウィーンに結びつけるためにモーツァルトを入れたというわけではなさそうなのだが・・・

プログラム最後の曲、リヒャルト・シュトラウスの「アモール」は、動画でも観たが、まるでいたずらっ子アモールご本人のような可愛らしさ。もう脱帽するしかありません。

Encore

Wolfgang Amadeus Mozart
(?) Oiseaux, si tous les ans, K. 307
Richard Strauss
Morgen!

アンコール曲だが、コンツェルトハウスとは異なり、楽友協会ではオフィシャルサイトにアンコール曲の記載はなく、それどころか、公演そのものを即時に非表示にしてしまうようだ。必要最低限の情報しか載せないミニマル運営のサイトということだろうか。

2曲目は確かにリヒャルト・シュトラウスの「Morgen!」で間違いないはず。1曲目は「パリのモーツァルト」みたいな解説をサビーヌさんは語っていたのだが、パリに関連する歌曲は見つけられなかった。フランス語の歌詞だったのは確か。数少ないモーツァルト作曲のフランス語歌詞の歌曲から、多分、上に記載したこの曲だったと個人的に思った。ピアノ伴奏も確かこんな感じの連打の音があったと記憶している。

11年前も1公演だけブラームスホールで鑑賞したが、メインの大ホールほど煌びやかなホールではないと記憶していた。しかし、久しぶりに行ってみたところ、予想以上にキラキラだった。

今回の旅を締めくくる素晴らしい公演でした。

Brahms-Saal | Wiener Musikverein

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