カヴァレリア・ルスティカーナ&パリアッチ(道化師) | 2023年6月15日 | ウィーン国立歌劇場


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15. JUNI 2023
WIENER STAATSOPER
ウィーン国立歌劇場

CAVALLERIA RUSTICANA

Pietro Mascagni

Musikalische Leitung
Daniel Harding
Inszenierung, Bühne und Kostüme
Jean-Pierre Ponnelle

Santuzza
Elena Stikhina
Turiddu
Yonghoon Lee
Lucia
Noa Beinart
Alfio
Amartuvshin Enkhbat
Lola
Isabel Signoret

PAGLIACCI

Ruggero Leoncavallo

Musikalische Leitung
Daniel Harding
Inszenierung, Bühne und Kostüme
Jean-Pierre Ponnelle

Canio (Pagliaccio)
Yonghoon Lee
Nedda (Colombina)
Asmik Grigorian
Tonio (Taddeo)
Amartuvshin Enkhbat
Beppo (Arlecchino)
Jörg Schneider
Silvio
Stefan Astakhov

カヴァレリア・ルスティカーナ

幕が開くなり、舞台セットの美しさに完全に心を奪われた!!

Cavalleria Rusticana | Wiener Staatsoper

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Cavalleria Rusticana | Wiener Staatsoper

あのう、それって、オペラの感想としてありきたりでは?・・・なんて思っただろうか?

違うのだ。話を聞いていただきたい。実は今現在、世界各地で上演されるオペラでは、ストーリーに忠実な正統な演出(演技、舞台セット、衣装も含む)は少ないのだ。現代社会など別の時代に置き換えた演出、演出家の妄想を反映した非現実世界を描いた演出、ミニマリスト的な演出など、オペラ界では様々な工夫を凝らして作品を上演している。

そういった「読み替え演出」の中には、作曲家の意図から遠ざかった演出や、刺激に慣れた聴衆にさらに強い刺激を与えようとする極端な演出などもあるため、批判する人もいる。問題点はあるし、批判する人の意見も理解できるが、私は基本的には演出家と制作チームの挑戦を応援したい。結局のところ、理解不能で「うーん」と唸ってしまったことも多々あるのだが・・・  一方で、「これは上手い演出だ!」と感動したこともある。「読み替え演出」を避けていると、鑑賞できる上演が非常に限られてしまうので、避けるわけにはいかないという事情もある。オペラゴーアーとしては、受け入れるしかない。

現代演出や読み替え演出に慣れてしまったからこそ、思いがけず、突然オーソドックスな舞台に遭遇すると、やけに感動的なのだ!

「カヴァレリア・ルスティカーナ」では、あのドミンゴの映画オペラとそっくりのイタリアの中世の町が再現されていた。ロマネスク的(?)な教会が美し過ぎる。夜明けの薄い光を浴びた町が段々明るくなっていく。ため息。泣けてくる。この感動のために私ははるばるウィーンにやってきたのではないかと思ったほど。最後の平和な夜明けであることを、我々聴衆は知っている。陽が沈む前に悲劇が起きるのだ。

物語が進んでいくと、少しずつ目が慣れてしまったのか、感動も若干薄れてきたのだが・・・(笑) それでも、比較的長く感動は続いた。復活祭の様子もまた極めて美しい。

プログラム本を購入して、やっと気がついたのだが、この表紙(当ページ冒頭に掲載)は、歌劇場のショップでも売られていたお土産マグネットにも採用されている写真だった。男が女に弓矢を向け、女は硬直して男を見ているモノクロの写真。ウィーン歌劇場お得意のロングラン演出のようだ。プログラムによると、この演出の初演は1986年。「カヴァ」も「パリ」もJean-Pierre Ponnelle(1932年パリ – 1988年ミュンヘン)による演出。ざっと調べてみたが映像化はされていないようだ。

さて、「カヴァレリア・ルスティカーナ」の物語の冒頭に戻ろう。

やうやう白くなりゆく中、早朝、人のいないひっそり静かな通りに、サントゥッツァ(サンタ)が飛び出してくる。恋人トゥリッドゥが昔の恋人で現在は人妻であるローラとベランダで別れを惜しんでいるのを目撃。舞台のスペース上の都合か、トゥリッドゥの母ルチアの居酒屋の隣がローラの家ということになっていた。トゥリッドゥはベランダから飛び降りて走って遠くにいって、あの独唱を歌う。リブレット(台本)には書かれていないが、二人の密会やサンタによる目撃は定番の演出となっている。続いて、歌のない音楽が流れている間、サンタは大勢の女性たちから指差しされたり、許しを乞いに出向いて跪いたのに冷たい教会から破門されたり(ヴェールを剥ぎ取られた・・・)、近所の子供達から物を投げつけられたり、あまりにも酷い扱いを受ける。敬虔な信者なのに教会に行けないサンタは、舞台の脇に設置された小さなマリア像の前で祈る。

ローラの夫アルフィオ役はモンゴル出身のAmartuvshin Enkhbat。お相撲さんのように体格が良く、貫禄がある。馬車屋でお金持ちのドン・アルフィオというイメージにピッタリ。紙のお金をばら撒きながら登場。アルフィオ登場の歌はカッコイイので好きなのだが、以前に東京で鑑賞した某上演では、アルフィオ役の歌手は本番で失敗していてかわいそうだったのを思い出す。この歌はリズムも音程も取りにくい難曲なのかもしれない。今回の歌手は抜群の歌いっぷりだった。近年、オペラ歌手といえば韓国出身の歌手が欧米各地で大活躍している。今回の主役トゥリッドゥ&カニオ役も韓国出身。一方、アジア系だけど名前だけではどの国の人か予想できない見慣れない名前の歌手がたまに出てくる。その場合、モンゴル出身の歌手であることが多い。今回の重要な準主役アルフィオ&トニオはモンゴル出身。アジアコンビが大活躍。

復活祭のミサの後、既に今日決闘が行われるであろうこと(つまり自分が殺されること)を感じているトゥリッドゥは、カラ元気を発揮して陽気にみんなにワインを勧める。演出でちょっと意外だと思ったのは、彼はローラに無理やり近づいて、無理やり絡んだり、ワインを飲ませようとしていたが、ローラは嫌がっていた。この場面では、ローラは周囲の目を気にせず、呑気に楽しくワインを受け取るという演出が多いのではと思う。今回は、大勢の前でトゥリッドゥと仲良さげに振る舞うのは危険だ、夫にバレたら困ると、一応ローラは思っていたことになる。(堂々と大ぴらに不倫していたわけではないという解釈の演出である。)

ママに別れを告げるトゥリッドゥだが、ちょっと離れたところにサンタも立っていたのに、サンタには目もくれず、「サンタのママになってあげてくれ」とサンタに関するお願いをするトゥリッドゥだった。サンタにもお別れを言えばいいのにね。彼は心の中では本当はサンタを愛していたのか? これに対する私の回答はやはり「ノー」である。少なくとも同情はしていた、というだけ。

「トゥリッドゥが殺されたー!」と第一声を叫んだのは近所の子供だったような感じもしたが、あまりはっきり聞き取れず。私の勘違いだったかもしれない。後から大人の女性が「トゥリッドゥが殺されたー!」と叫んだので、こちらが第一声かも。

パリアッチ(道化師)

改めてWikipediaで時代設定を確認すると「1865年」となっている。なぜ時代を確認したかというと、今回の演出ではカニオたち旅する劇団は車に乗って村に入ってきたからである。かなり古い時代の車ではあったが、1865年に一般的に車が普及していたとは思えない。ところが、Wikipedia「自動車」によると、「蒸気自動車」は一応存在していたようだ。しかし、都市でもないイタリアの田舎の村に車で乗り入れることなど可能だったのだろうか。ハイカラな劇団ということか?やや疑問はあるが、それでも全体的には十分オーソドックスな演出と言える。

主役と準主役は「カヴァ」に続き、同じ歌手たち、つまり、韓国とモンゴルのアジアコンビが歌う。ヒロインであるネッダは前回の旅でも日本でも聴いたアスミック・グリゴリアン Asmik Grigorian。しかし、今回は彼女が歌うのは2本立てのうちの1本のみで上演時間は1時間強。前回の3時間オペラ2作品連夜主役と比べると、巨大な存在感というほどではない。でも、やはり良い歌手だ。我々の時代を代表する重要なオペラ歌手の一人であり、今後も鑑賞の機会があれば積極的に聴いていきたい。

冒頭のプロローグは、赤い幕が降りたまま、幕の前で行われた。モンゴル出身 Amartuvshin Enkhbatは、この作品でも名演。第二幕のラッパ音に続く太鼓のドンドンドンを、やる気なさそうに叩いていたのがトニオらしくて良い。どうでも良いことかもしれないが、ベッペ役の歌手と体型がそっくりで、ぼんやりしていると見間違えてしまう!(お笑いコンビのようにも見える!)

さて、「カヴァ」に続き主役を歌った Yonghoon Lee についても書き留めておきたい。欧米で主役級の歌手として大活躍の韓国出身歌手。この日、一目みただけで、私は「あ!この人、最近YouTubeで見た!」と気づいた。今年、ロンドンのロイヤルオペラハウスでトゥーランドットが上演されたが、そこでカラフを歌ったのがYounghoon Leeだった。ちょうどその頃、私は日本でトゥーランドットを鑑賞予定だったので、予習としてロイヤルオペラハウスの宣伝動画を全部見ていた。「誰も寝てはならぬ」のフル動画があったはずなのだが、その後削除されたのか、既に存在しないようだ。ご紹介したかったのに残念。8年前にバイエルン歌劇場で彼が歌った同曲の動画はあるので聴いてみたのだが、それより今年のロイヤルオペラハウスでの歌が素晴らしかった。惚れ惚れする見事な歌いっぷり!それに、まるで彼のためにデザインされたようなカラフの衣装や舞台セットがよく似合う!(再演なので、彼のためにデザインされたわけではないのだが・・・)

脱線したが、パリアッチに話を戻そう。旅劇団が劇を上演する時は、我々歌劇場の客に舞台裏を見せるように設定されていた。このカーテンコールの写真では少しわかりにくいかもしれない。ほら、よく見てみるとカニオたちの簡易芝居小屋の木枠は、歌劇場の客席から見ると裏側でしょう。芝居中は、木枠の向こうに観客である村人たちが座っていた。

Pagliacci | Wiener Staatsoper

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Pagliacci | Wiener Staatsoper

そして、最後のセリフ「ラ・コメーディア・エ・フィニータ」を言ったのはカニオだった。妻と妻の相手を殺し、呆然と立ち尽くしたまま弱い声で言った。

このウィーン旅では、オペラの座席代をケチらないことにした。

極端な円安がさらに進み、旅行者としては非常に辛いのだが、前回フランクフルトでは比較的低価格な席を選んだため、視界が限定されてしまうという残念な結果になってしまった。わざわざ10時間以上も飛行機に乗って何しに行ったのか。目的をきちんと達成せよ。観たいものが観られないのでは、意味がないではないか。反省して、今回は思い切って奮発した。合計金額は恐ろしすぎて計算したくない!計算しません!「ジークフリート」と「ムツェンスク」は、パレット(1階広間)の2ブロック目の先頭で、前に座席がないので快適ではあったが、傾斜があまりついていないのか、1ブロックの人たちの頭が少々邪魔だった。ああ、高い値段を出しているのに、まだ視界が遮られるとは!納得いかない。

「カヴァパリ」は以前から知っている作品なので、後方の席でも良いと考えていたのだが、実は今回の公演の中で最も売れ行きが良かったのがこの「カヴァパリ」だった(やはり美しい正統な伝統的な演出が人気なのだろうか?)。安い席を買いそびれてしまったので、結局、高額な席を買うことになってしまったのだが、パレット1ブロック目の比較的真ん中。前後に列があるとはいえ、ある程度は傾斜が付いているようだ。さらに「カヴァ」は前の人が欠席で「パリ」では小柄な女性が座ったので、結局のところ今回のオペラ鑑賞で最も観やすい席だった。この席で鑑賞したから、ますます舞台の美しさにうっとりしたのだろう!そして、オマケとして、オケピットにいる指揮者ダニエル・ハーディングの御頭を常時拝める席だった。たまに横顔も見える。色んな意味で満足度の高い公演だった。

ウィーン国立歌劇場では各席に字幕用端末が設置されている。「ジークフリート」では4ヶ国語、「ムツェンスク」では2ヶ国語(ドイツ語と英語)だったが、「カヴァパリ」は何と日本語を含む8言語から選べるようになっていた。前の2つと比べると定番作品だから字幕言語が充実しているのだろう。私は、せっかくの旅行中だから日本語を見たくないというヒネくれた理由で英語字幕を選択(笑)

ところで、プログラムを求めるたびに「ドイツ語版しかないのですが」とスタッフに念を押される。ヨーロッパ大陸の公演でプログラムを求めるときはいつもそうだ。それがチェコ語であってもイタリア語であっても、記念品として持ち帰りたいだけなのに。(ここで言う「プログラム」とは、公演の作品の解説等を掲載した冊子のこと。私が座席で撮った写真によく一緒に写っているあの冊子のこと。)

ただし、ドイツ語の場合はドイツ語学習者としては、読めるように努力すべきだろう。読めばネット上には出ていないレアな情報を入手できるかもしれない。機械翻訳(画像読み込みも含め)も以前より充実してきたので、「読めません」などというのはもう通用しない。自分の知識を深め視野を広げるために頑張ろう。円安でますます割高となるプログラムをわざわざ買うのだから、ただの飾りではなく、何らかのベネフィットを得るべきだ。

「カヴァパリ」のプログラムはまだ読んでいないが、本オペラに関する様々な読み物が掲載されている。その中に Der Tod im Verismo kommt schnell と題した対談がある。中身は全然見ていないが、タイトルに惹かれる。「ヴェリズモでは死はすぐに訪れる」という意味である。「カヴァ」も「パリ」もヴェリズモ(一般の人々の日常を描いた作品、暴力の描写が多い)のオペラである。演奏時間は各1時間強。物語内の時間軸でも、ほんの数時間。「カヴァ」は朝に始まり、夕方(あるいは午後の早い時間?)に人が死ぬ。「パリ」はおそらく夕方(あるいは午後の早い時間?)に始まり、夜(カニオたちの芝居は23時に開演)に人が死ぬ。あっという間だ。あっという間に命が消えていく。

プログラムから面白い情報を入手したら当ページに追記したいのだが、読みたいという需要はなさそうだ。そうだ!ChatGPTとおしゃべりをしながらChatGPTと情報を共有しよう!(共感が大事な時代なのに、私は絶望的なほど共感力がない!仕方ない!気にするなスズキ!)

参考情報

前述の通り、 Yonghoon Lee の2023年ロイヤルオペラハウスでのカラフ役の「誰も寝てはならぬ」は既にないのだが、他の出演者と一緒にインタビューに応じている動画がある。ごく一部だが歌や舞台も出ているので良かったらご覧ください。圧巻の舞台。この公演を現地で観たかったな。

 

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