Prégardien / Samel / Drake |2023年6月14日 | ウィーン・コンツェルトハウス

14. Juni 2023
Wiener Konzerthaus
Mozart-Saal

Christoph Prégardien, Tenor
Udo Samel, Lesung
Julius Drake, Klavier

»Liebe & Verlust«. Gedichte und Texte von Johann Wolfgang von Goethe

Franz Schubert
Der König in Thule D 367 (1816)

Franz Liszt
Es war ein König in Thule S 278/2 (1856)

Franz Schubert
An Schwager Kronos D 369 (1816)

Hugo Wolf
Anakreons Grab (Goethe-Lieder Nr. 29) (1888)
Ganymed (Goethe-Lieder Nr. 50) (1889)

Ludwig van Beethoven
Wonne der Wehmut op. 83/1 (1810)

Franz Schubert
Erster Verlust D 226 (1815)

Ludwig van Beethoven
Maigesang op. 52/4 (1793 vor)

Franz Schubert
Rastlose Liebe D 138 (1815)

Edvard Grieg
Zur Rosenzeit »I Rosentiden« op. 48/5 (1884–1888)

Franz Schubert
Heidenröslein D 257 (1815)

Carl Loewe
Erlkönig op. 1/3 (1818 ca.)


Franz Schubert
Jägers Abendlied D 368 (1816)
An den Mond D 259 »Füllest wieder Busch und Tal« (1815)
Der Musensohn D 764 (1822)

Carl Loewe
Wandrers Nachtlied II op. 9/1 Nr. 4 (Nachtgesänge) »Der du von dem Himmel bist« (1828)

Franz Liszt
Der du von dem Himmel bist S 279/1 (Erste Fassung) (1842)

Robert Schumann
Freisinn op. 25/2 (Myrten) (1840)

Franz Schubert
Wandrers Nachtlied II D 768 »Über allen Gipfeln« (1824)

朗読付きのコンサートというのは、現地語の理解が十分でない者にとっては非常に厳しい。他の人たちが熱心に耳を傾け、時に笑い声さえ起こっているのに、ほとんど理解できないまま黙って耐えるしかない。ちゃっかり現地人のような感覚で楽しめる他の公演とは全然違う「アウェイ感」の中で鑑賞する。

何が朗読されるのか、テキストがあらかじめ公開されているなら、私はそれを事前に勉強しておくのだが、朗読に関する情報は何もなかった。今回取り上げられた各曲の詩を朗読するのだろうか。それであれば、曲を予習しているので、問題なく聴き取れる。そう期待したのだが、朗読されたのは歌われる曲の詩ではなかった。聴き取れた単語や言葉のリズムから察するに、おそらくゲーテによる他の詩が読まれたと思われる。詩だけではなく、ゲーテに関する補足情報、解説もあったように思う。

しかし、落ち込んでばかりいたのではない!

私は一瞬だけ快感を得たのだ!

Veilchen という詩が読まれた。あ!この単語は知っていると即座に思った。スミレのことだ。なぜこの単語を知っているかというと、旅の最終日に鑑賞するサビーヌ・ドゥヴィエルの歌曲リサイタルでスミレが主人公の歌が歌われるから、しっかり予習してあったのだ。

朗読を聴いていると、なんとそれは鑑賞予定のモーツァルト作曲の歌曲「スミレ」の詩そのものだった!(ゲーテの詩だったのね!)

ドイツ語で詩の朗読を聴いて、その詩を最初から最後まで知っていることなど、そう滅多にない。我ながら自分スゴイではないかと思ったのだった。この詩を少しご紹介しよう。スミレちゃんは、大好きな憧れの女の子に摘んでもらって、ギュッと抱きしめて欲しいなって、ドキドキワクワクしながら待っていたのに、女の子はスミレちゃんの存在に気づかず、スミレちゃんを踏んづけてしまったのでした!死んでいく可哀想なスミレちゃん!大好きなあの子によって死ぬんだから、ボクちゃん幸せ・・・ そんな可愛いスミレの小さなお話でした。おしまい。

読み方、歌い方によってかなり笑える詩なので、お客さんも私もクスクスしながら朗読を聴いた。この詩による歌は、今日のプログラムには入っていない。もしプログラムに入っていたら?!プレガルディエン(父)なら、どう歌っただろう?女性歌手向けの歌のように思うが、彼なら真面目に面白く歌ってくれそうなのだが。

ちなみに、他の朗読では、皆さん、もっと大きな声で笑っていたのだった・・・ スミレちゃんより面白い内容だったのね?!理解できず無念。

ドイツ語で朗読されたゲーテの詩をすべて即座に理解できるようになることは難しい。きっと不可能だろう。それでも、詩そのものをあらかじめ知っていれば、現地の人々と同じように楽しめるということを感じたのだった。ゲーテの詩を知る機会など、鑑賞する歌曲リサイタルのプログラムに含まれている時に限るが、そういった機会を利用しながら地道に詩を覚えていくしかない。

クリストフ・プレガルディエンの生歌は実は割と最近に聴いたばかり。去年秋に東京のトッパンホールで鳥肌モノのシューベルト「冬の旅」を歌った。今回も日焼けした健康そうな肌色で登場。まだまだお元気。客席が朗読につられて笑いに包まれても、プレガルディエンもピアノのジュリアス・ドレイクも真面目な顔のまま。

予習時から気に入っていた「トゥーレの王」について、プログラムを読むと、ゲーテの「ファウスト」に出てくる「text within the text」だそうだ。「ファウスト」という韻文で書かれた戯曲の中で、グレッツェンが歌う古い民謡ということになっている。改めて検索してみると、日本語でもネット上に情報があることに気づいた。(予習時は詩の訳しか見ていなかった・・・) さらに調べると、「トゥーレの王」の詩は「ファウスト」以前にゲーテが作ったもので、それを「ファウスト」にも採用したということ。伝説の地、本当に存在したかどうか、どこにあったのかも不明だが、北のどこかにあったと言われるトゥーレ。トゥーレは島であるとされているのだが、ふと数日前に北ドイツで訪問したグリュックスブルク城を思い出す。湖に囲まれた城は、「トゥーレの王」が大昔に住んでいたかもしれないと思わせるような雰囲気ではなかったか?!グリュックスブルク城が歴史に登場したのは1192年。トゥーレ伝説は古代の頃から知られていたのだから、関係なさそうではあるが。。。

アンコールは、ゲーテの詩による歌曲に違いないと私は思って、ホテルに戻ってから聴き取れたフレーズと「ゲーテ」をキーワードに入れて検索して見たのだが、曲に辿り着けなかった。日本のようにいちいちアンコール曲をネット上に掲載してくれないのだろうと思っていたのだが、数日後にサイトを見たら、きちんとアンコール曲が記載されていた。コンツェルトハウスありがとう!(アンコールはZugabeというのね。)

Zugabe:

Carl Loewe
Lynceus, der Türmer, auf Faust’s Sternwarte singend op. 9, Heft 8, Nr. 3

Johann Abraham Peter Schulz
Der Mond ist aufgegangen (1790)

1曲目は確かにゲーテ作詞だった。

2曲目は、ピアノ伴奏無しで、客席もみんな一緒に歌ったのだった。歌う前に、朗読した俳優ウドさん(「ウド」という発音で良いのよね?)もジュリアス・ドレイクも紙切れを持って前に出た。プレガルディエンが「はい、注目!」という感じに無言でその紙切れを指差す。曲名を伝えたのはウドさんだったかな。ドイツ語圏では有名な歌らしい。(最後の最後にまたアウェイ感だ。。)

今回の会場、コンツェルトハウスのモーツァルトホールに来たのは初めて。ブルーのホールなのね。ランチタイムコンサートで行った同ハウスのシューベルトホール、楽友協会のブラームスホールなど、ウィーンには小ホールが複数あるので、歌曲や室内楽の公演が充実。ウィーンでの音楽鑑賞はバラエティ豊かで楽しい。

 

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